戦略法務とは何か―経営判断における法的視点

企業法務の世界では、伝統的に、「守りの法務」としての臨床法務(紛争対応)が重視されてきました。しかし、近年の経営環境の変化やグローバル化の進展に伴い、企業の成長や競争力強化のために「攻めの法務」としての戦略法務が不可欠となっています。

戦略法務とは、企業が掲げる経営戦略を法的に実現可能な形でサポートし、経営判断に法的視点を積極的に取り入れる法務活動をいいます。例えば、新規事業の立ち上げ、M&A(合併・買収)、海外進出、知的財産権の活用、規制対応など、企業の成長や事業拡大に直結する場面で、法的リスクを最小限に抑えつつ、経営目標の達成を後押しするなどです。

戦略法務の特徴は、単なるリスク回避やトラブルの未然防止にとどまらず、「経営の意思決定を加速し、企業価値を最大化する」点にあります。たとえば、新規市場への参入を検討する際、法規制や許認可のハードルを事前に精査し、最適な事業スキームを提案することで、スピーディーかつ安全な事業展開を実現できます。また、M&Aではデューデリジェンス(法務監査)を通じてリスクを洗い出し、買収後の統合プロセスまで見据えた法的アドバイスを提供することが重要です。

経営判断においては「経営判断の原則」が判例上も認められており、経営者が十分な事実調査と合理的な検討を尽くしたうえで意思決定を行えば、結果的に損失が生じても責任を問われにくいとされています。しかし、法令違反があった場合にはこの原則は適用されず、経営者個人の責任が問われる可能性があるため、戦略法務の視点から法令遵守(コンプライアンス)を徹底することは不可欠です。

戦略法務の実践には、社内法務部門と外部法律事務所の連携が理想的です。特に中小企業では、法務リソースが限られるため、法務部門が確立していないというケースも多いでしょう。そのような場合にも、外部の専門家を活用することで、複雑な法的課題にも柔軟かつ迅速に対応できます。戦略法務の専門家である弁護士は、経営者と密に連携し、企業の成長戦略や事業目標に即した法的アドバイスを提供することがその責務となります。

戦略法務は、企業が新たな価値を創造し、持続的な成長を遂げるための不可欠なパートナーです。経営判断に法的視点を取り入れることで、リスクを最小限に抑えながら、ビジネスの可能性を最大限に引き出すことができます。

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この記事を書いた人

内幸町国際総合法律事務所 共同代表弁護士。企業法務・労働法・入管法の実務30年超、取扱事件約5,000件。みずほ銀行・三菱UFJ・SMBC・りそな各総研、東京都労働相談情報センター等で年間約80回登壇。著書・監修約30冊。英検1級・TOEIC930点、英語での法律相談・執筆にも対応。

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