ビジネス契約の基礎知識  6 書式集に頼りすぎることの問題点

契約書を作成する、特に、自社では経験のない分野の契約書を新規に作成するということになるとインターネットや市販されているテンプレート(書式集)を利用することはよくあるでしょう。

しかし、書式集の類いの利用は、誰にとってもよくない、と言わざるを得ません。

確かに書式集は便利ですが、基本的に、「この種の契約書ではこのような項目の規定があるべき」といえる項目をリストアップしたもの以上のものにはなりえません。

1 その契約での自社の立場は

 ごく単純な売買契約を考えて見ても、自社がどのような条項に重点を置き、どのような内容の規定にするかは、自社が売主か買主かによって、当然異なってくるでしょう。売主であれば、代金は確実に回収できるか、過剰な契約不適合責任を負わされていないかといった点が重要になるでしょうし、買主なのであれば、目的物は債務の本旨に従ったものか、確実に目的物を受領できるか、契約不適合の場合の対応は十分かといった点が重要になります。中立的な規定があるだけでは、到底十分とはいえないのです。

2 自社の都合に即した内容になっているか

売買代金の決済方法・支払条件などは、企業によって異なります。書式集の契約書は、一般的な取引条件に従って書いていることが多いのですが、それが自社に適合的とは限りません。

3 自社のこだわりに応えられる内容になっているか

 類型としては同一の売買契約、業務委託契約などであっても、その取引が自社にとってどのような意味を持つかは異なります。原材料の調達を目的とした取引であって、自社としては消費者向けの製品を販売している、ということであれば、安全性が重要であり、その点に関する保証は不可欠だ、ということもあるかもしれません。

 契約のどこに重点をおくのか、どの項目が自社にとってゆずれない重点であるのか。こういった点はケース・バイ・ケースで異なりますから、個別に検討しなければなりません。

4 最新の内容になっているか

 いうまでもありませんが、法律や判例は、変転しうるものです。書式集にしても、それが発行された瞬間から時代遅れになっていくといっても過言ではありません。労働者保護、消費者保護といった法令は、頻繁に変更されます。書式集に頼って、新たに法律により要求されることになった項目が抜けるなどして、違法・無効といった問題が生じることすらあるのです。

書式集を基にすることはかまいませんが、それをどのように自社の状況に合わせて修正していくかが勝負になります。

これは、新たに締結する契約にのみ気を付ければいいということではありません。場合によっては、遡って自社の有する契約についてメスを入れなければならないときもあります。これまでの経験の積み重ねを活かしながら、既存のものをどのように磨き、up to dateしていくか、定期的な確認のルーティーンも組んでいった方がよいでしょう。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次