商標・特許・著作権の実務トラブル

現代ビジネス環境において、商標・特許・著作権など知的財産権(IP:Intellectual Property)の戦略的活用と法的保護は、企業経営の基盤といえます。一方で、これらの権利を巡る実務トラブルは中小企業にも日常的に発生し、予防措置や初動対応を誤ると、深刻な損失や社会的ダメージにつながることも珍しくありません。本稿では現実に起こり得るトラブルの具体例と、企業が法律事務所を活用する意義について詳述します。

1 商標トラブルの典型例とその影響

・商標未登録による損害とブランド変更リスク

  • 「堂島ロール」で有名な株式会社モンシュシュは、会社名を商品パッケージに表示していましたが、「モンシュシュ」は既に他社が商標登録済み。結果、商標権侵害として約5,140万円の損害賠償とブランド名・社名の変更を余儀なくされた事件があります。
  • 地域ビジネスで長年使っていた名称が、他社に先んじて商標登録された事例も。たとえば「シルバーヴィラ揖保川」事件では、約600万円の損害賠償と施設名変更を命じられています。

・インターネット時代の商標トラブル

  • ウェブメタタグやドメイン名の使用が、他社商標権の侵害と認定されるケースも増加。「車の110番」事件や「キャリアジャパン」事件など、思わぬ形で損害賠償責任が発生しています。


商標調査と早期登録、類似名称やインターネット資産(ドメイン・SNS名等)の一元的管理が不可欠です。

2 特許トラブル ~「改良品」でも侵害・高額賠償のリスク

・製品改良と“思わぬ侵害”

  • 「切り餅」事件では、特許を有するA社が側面切り込み構造を特許化。B社は上面・底面にも改良切り込みを加えましたが、効果や構造の本質が類似として約8億円の損害賠償が認定されました。
  • 出願段階や公表時のノウハウ漏洩、共同開発・共有特許を巡る紛争、従業員退職時のノウハウ流出など、中小企業でも頻発します。

・出願ミスや管理不備による潜在リスク

  • 十分な調査を行わずに特許出願したため、既存の他社特許に抵触/反論できず競争から脱落、あるいは効果的な活用・収益化ができない事例も挙げられます。


技術内容の事前調査・出願戦略、研究記録の体系化、共同開発契約や秘密保持、権利行使のシミュレーションが重要です。

3 著作権トラブル ~“知らぬ間に侵害”のリスクと損害賠償

・ネット・デジタル時代の著作権侵害

  • ECサイトの商品画像の無断流用、広告・ロゴ等のデザイン盗用、オリジナル写真や学術資料の著作権・翻訳権をめぐる紛争等、日常業務の中で発生しやすいです。
  • 看板、ポスター、教本、パッケージソフトの無断複製や社内コピー利用なども、民事損害賠償や謝罪広告、差止め命令のリスクを伴います。

・身近な事例

  • 理美容院が店舗BGMとして市販楽曲を使用した結果、音楽の差止めと損害賠償を命じられた事例や、振り付け・プログラム等の無断利用で法的責任を問われた事例もあります。


契約・依頼時の権利範囲明示、社内ガイドラインの整備、多様なコンテンツ利用時のライセンス管理、未然防止の教育徹底が求められます。

知的財産権の“落とし穴”は、企業規模や業界を問わず常に隣り合わせに存在します。一方で、適切な制度活用と初動対応、プロフェッショナルの関与によって、損失やブランド毀損リスクを最小化し、経営資源の最大化を実現することができます。貴社の将来価値を守り・活かすために、知財リスクマネジメントを検討する必要があります。

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