製造物責任(PL法)訴訟の初動対応

製品の欠陥による事故発生は、企業の社会的信用を大きく損なうだけでなく、多額の損害賠償や行政処分を招く可能性があります。製造物責任法(PL法)訴訟に発展しそうな事態では、初動対応の迅速さと的確さがその後の被害拡大を防ぎ、訴訟リスクを最小限に抑える鍵となります。ここでは、30年以上の企業法務経験をもつ当事務所が推奨する、企業がまず取り組むべき初動対応の具体的ステップを解説します。
1 事実関係の迅速な把握
事故が発生したら、まず関係者からの報告を受けた時点で直ちに社内の担当部署(品質保証、安全管理、法務など)に連絡し、初動調査を指示することが重要です。事故の発生日時、場所、状況を詳細に記録し、被害者の氏名と連絡先、負傷の程度や被害内容、周囲の第三者の証言も可能な限り収集します。同時に、当該製品の製造ロット番号、出荷日、取引先名などを特定し、どの範囲の製品に同様の問題が起きうるかを早期に見極めます。
2 証拠保全体制の整備
事故製品と同ロットの製品をただちに隔離・保管し、改ざんや廃棄を防止します。保管場所は施錠管理し、立ち入り記録を残すことが望ましいでしょう。製造工程の記録や検査報告書、設計図面、部品購入先の納品書、社内メールや報告書といった関連資料を速やかにデジタル化してバックアップします。証拠保全は後に専門家との共同調査や訴訟での証拠提出にも直結します。
3 社内危機管理チームの結成
事故対応の指揮系統を明確にするため、社長または経営層直下に「危機管理チーム」を設置します。メンバーには法務、製造、品質保証、安全管理、広報、人事、総務など各部門の責任者を含め、事故情報の収集、被害者対応、社外発表、社内連絡、再発防止策の策定などの役割を分担させます。チームの連絡ルートと報告フローを文書化し、全員が共通の情報基盤を参照できるようにしておくことが不可欠です。
4 初期報告と保険活用の検討
PL保険や製造物賠償責任保険の契約内容を確認し、保険金が利用可能かを早急に保険会社に報告します。保険会社には事故の概要、被害状況、見込まれる賠償額の予測を伝え、保険適用の可否と対応方針を協議します。保険適用の可否は、その後の賠償準備の資金計画にも直結しますので、詳細な初期報告書をまとめ、保険会社との連携体制を整えておくことが重要です。
5 被害者対応の誠意ある実施
被害者やそのご家族に対しては、まずは企業としての調査状況を説明し、心からの謝罪を伝えることが信頼回復の第一歩です。そのうえで、病院の搬送や医療費の立替え、事故品回収の手配など、緊急性の高い要望に迅速に対応します。企業側の責任を軽く見せるような発言や行動は厳禁ですが、初期段階での誠実なケアは、後の和解交渉や示談をスムーズに進める基盤となります。
PL訴訟は専門性の高い分野であり、設計上の責任、製造工程の瑕疵、取扱説明書の記載不足など、法的論点が多岐にわたります。事故発生段階から弁護士と連携し、調査計画の策定、証拠保全手続きの確認、被害者対応方針の法的リスクチェック、示談交渉や訴訟戦略の立案を進めることが最良のリスク回避策です。早期に専門家アドバイスを受けることで、企業の対応ミスを未然に防ぎ、適切な賠償金額の見極めや訴訟回避交渉を有利に進められます。
製造物責任訴訟の初動対応では、「迅速な事実把握」「証拠保全」「危機管理体制の整備」「保険活用」「誠意ある被害者対応」「専門家連携」の6項目が柱となります。事故発生時にこれらを的確に実行できるかが、企業の信用と安定経営を守る分岐点です。製造物責任訴訟に不安を感じたら、企業の未来を守るためにも、ぜひ早めにご相談ください。