ビジネス契約の基礎知識  7 労働契約・業務委託契約の注意点

 今回は、似て非なる契約に注意、というテーマです。その代表例として、「労働契約」と「業務委託契約」をとりあげます。近年、働き方の多様化やフリーランス活用の拡大に伴い、両者の区別やリスク管理の重要性が増しています。契約書の文言だけでなく、実態に即した運用が不可欠です。

1 労働契約と業務委託契約の本質的な違い

 まず、この2つの契約は何が違うのかを見ておきましょう。

 労働契約と業務委託契約は、いずれも、他の者に仕事をしてもらうという点では同じですが、その性質に本質的な違いがあります。

 労働契約は会社が労働者に対して指揮命令を行う関係がその本質です。イメージとしては、日々「これやって」「あれやって」と細かい指示が飛んでいるイメージになります。

 労働基準法などの労働関連法が適用され、報酬は労務の対価として「賃金」として支払われ、社会保険や労災保険についても会社が加入・適用する義務があります。また、労働者は就業時間や勤務地などについて会社から拘束を受けるのが一般的です。

 これに対し、典型的な業務委託契約は原則として発注者による指揮命令関係はありません。仕事を頼まれた受託者が独立して仕事を進めていくことになります。

 民法や商法などの一般法が適用され、報酬は業務の完成や遂行の対価として支払われ、社会保険や労災保険については原則として適用外となり、受託者自身が必要な手続きを行います。

 独立して業務遂行されるわけですから、業務遂行の時間や場所についても、発注者からの拘束は原則としてなく、受託者が自ら裁量を持って業務を行う点がその特徴となります。

 名称として業務委託契約としていても、実態が指揮命令関係に基づいていれば、労働契約と判断されるリスクがあります。

2 業務委託契約における主なリスクと注意点

 上記のように業務委託は労働契約と区別され、異なる法規制をうけることになりますが、実際には、両者の区別が不明確な場合もあり、そのため、次のようなリスクが生まれてくることになります。その他にも、業務委託によく見られる問題点がありますので、挙げておきましょう。

(1)偽装請負・労働者性認定リスク

 指揮命令や勤務時間・場所の拘束、諾否の自由がない等の実態があれば、労働契約とみなされる可能性があります。

 労働契約と認定されると、未払い賃金や社会保険料の追加負担、労働法違反の指摘など重大なペナルティを受けることがあります。場合によっては、労働者派遣法の規制を潜脱する偽装請負の問題が生じる場合もあり、要注意です。

(2)契約内容の曖昧さによるトラブル

 業務範囲や報酬、納期などが不明確な場合、追加業務や報酬未払いなどの紛争が生じやすいのも特徴の一つです。

(3) 下請法・フリーランス保護法等の法規制

 一部の業務委託契約には下請法やフリーランス新法が適用され、不当な報酬減額や買いたたきなどが禁止されています。

(4)再委託・秘密保持・損害賠償等の実務リスク

 再委託の可否や秘密保持義務、損害賠償範囲なども明確に規定しなければ、情報漏洩や予期せぬ責任負担のリスクがあります。

現在の自社の運用に問題がないか、一度確認しておくとよいでしょう。

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